circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

シャンタル・アケルマン/ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地

まずは聖地巡礼から。

https://maps.google.com?q=Quai%20du%20Commerce%2023,%201000%20Bruxelles,%20%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC&ftid=0x47c3c3856e791205:0xfd89825e10a5d573&hl=ja-JP&gl=jp&entry=gps&lucs=s2se

郵便番号が違うようだが…f:id:lueur:20230716230347p:image
f:id:lueur:20230716230337p:image

邦題は日本での住所並びになってしまっていて、宇宙 日本 世田谷という感じだが、最初に来る宛先の名前が一番小さな単位だから、やっぱり小さい順で並べる方がいいのではないか。

ジャンヌ・ディエルマン、23番地、コメルス河畔通り、1080、ブリュッセル

グランプラスから歩いて16分、街の中心に近いいい場所ではないか。暮らしぶりはあえてつましすぎないように書かれている気がする。カフェに行くのは日課だし(安いのかもしれない)。

河畔通りと書いているが映画に河は出てこない。上記のgoogle地図でみると運河(カナル・ド・ブリュッセル)は通りを数本隔てている。コメルス通り、で良かったのではないかというきもする。商業通りの名にふさわしくなくジャンヌの家の周りは特に店があるように見えない(が、通っている肉屋やパン屋やカフェは同じ通りかもしれない。)ジャンヌが自分の身体を商業にしていることの隠喩があるのかないのか。

やたらと肉とじゃがいもを食べている。しっかりした料理を作っていて、息子のソファベッドは毎回リビングの椅子を大移動させて伸ばしている。毎夜息子と散歩して、毎朝息子より早く起きて靴を磨き、毎朝赤ちゃんをあずかり、そんな中でいつも火が放置されている。同時に部屋を温めたり水を沸かしたりじゃがいもを茹でたりしているのだが、火事は怖くないのか。娼婦としての仕事はジャガイモを茹でながら別の部屋で行われており、男性客はそんなことをつゆとも知らない(同時に行われる家事にジャンヌは意識的であり、男性客はそれを知ると萎えることだろう)。ある意味工業的なプロセスとして娼婦業が処理されていて、そのことに対し息子もジャンヌも後ろめたさや卑下がない。ちゃんとしたことをちゃんとする、という家事映画を長回しで撮ることが、急に再発見され、監督が自殺した後に英団体の選ぶ映画史の一位に輝いたりするが、その未来を知ることなく曖昧な作家として亡くなったしまった(生きているうちに作家性を高く評価されず、実際いろいろな作風でミュージカルやらハリウッド映画やら文藝映画やらとっている)。そこはかとなく、監督のユダヤ性のようなものも写しているような気もする。母親を撮っているのではないかという気がした、ニューヨークの映画の時も、ポーランドからポグロムを生き抜いた、家族の中の一人だけの生き残りというのがいた。愛が描かれているのではないのに、ほとんど痙攣的に(見栄えよりは効率性で)行われる靴磨きなどを見ていると、これを見ているのは誰か?という問いが浮かび、ただ客観的に撮る冷たい視線のなかに、愛があるのではないか、と私自身が反省をすることになる。200分の説教のようでもあった。繰り返しで終わらさずにクライマックスを入れた理由は私には分からなかった。ドラマが必要な理由が分からなかった。そこがフェミニズムなのだ、抑制された性なのだ、と書かれていた。うーん。じゃがいも茹でと同時並行に家内制手工業的に扱われている男性を見ているだけで私は十分食らうものがあったので、もういいのではないかと思ったのだけど。

 

日本におけるアケルマン受容は今、再発見されているのではなく、発見されている状況のようで、世界では一位になりながら日本で今受容され始めた形は、日本で早く熱烈に受容されながら今カンヌで酷い目に遭わされているビクトル・エリセと対照的で、セゾン文化に入らなかったというか、総長のアンテナに掛からなかったからなのか、総長がアケルマンの名前に触れたのを読んだことがないが(もちろん全てを読めているわけじゃない)、BBCの女性監督作品トップ10にはひそかに9番目という場所に入れられている。もしもっと早く触れられていたら日本での受容が違っただろう(80年-90年代であれば)。アケルマンはまだ生きていたかもしれない。

https://www.bbc.com/culture/article/20191126-the-100-greatest-films-directed-by-women-who-voted-a-l

Shiguéhiko Hasumi – University of Tokyo (Japan)
1. The Hitch-Hiker (Ida Lupino, 1953)
2. The Long Farewell (Kira Muratova, 1971)
3. Wendy and Lucy (Kelly Reichardt, 2008)
4. The Cool World (Shirley Clarke, 1963)
5. Love Letter (Kinuyo Tanaka, 1953)
6. Take Care of My Cat (Jae-eun Jeong, 2001)
7. Trace of Breath (Haruka Komori, 2017)
8. Aragane (Kaori Oda, 2015)
9. Jeanne Dielman, 23, Quai du Commerce, 1080 Bruxelles (Chantal Akerman, 1975)
10. La Pointe Courte (Agnès Varda, 1955)

田中、小森、小田の3人はいつも挙げているし、アイダ・ルピノの監督作の無視についても怒っていたし、2位にキラ・ムラートワの長いお別れがあるのは、分かる!としか言いようがないのだけれど。ユイレを(S-H作品をも含めて)入れるならたぶん一位に入っていたのではないかと思うけれど。長年のユイレ上げに対してアケルマン下げがあった(かもしれない)のはアンテナに掛からなかったのか(そんなはずはないので)あえて名前を上げていなかったのか。