circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

夜の御所を歩いた。誰もいなくて、周りには建物が見えず、樹だけが広がり、ぼくたちは砂利をじゃりじゃり進みながら、10年前とさして変わらない話をした。生きているんだな、と思った。美しさとは、君の目が切り取ったある時のことで、君がそれをどこかで文章にし続けてくれるなら、僕はもうそれでいいような気もした。僕は暗闇に怯えながら、まだ生きる意味のことや、時間の過ぎ去ることや、死が近づくことの恐怖を話していて、御所の薄暗闇の門に護衛の人が立っていることに気がつかず、君がはっ、と言ったことで驚いた。梨木神社は、鳥居の向こうがすぐマンションになってしまっていて、マネタイズ、と僕は言い、御神体、と君が言った。参道をマンションにしてしまったので、迂回しなくてはならなくなっているようだった。初めて会った時に、夜の大文字に登ったことを考えると、勢いはなくなったんだろうね、とは思った。たぶん幾つかの可能的な死を超えては来たんだろう。死なずに生きている人と死んだ人の違いはあまりなく、ある人の言う、目を瞑って飛び石を渡っているようなものだったのではないかと思う。いまだに僕は不安定だけれど、時が過ぎることを恐れるより、幸せなことが来ることを期待できるといいなと、こころより思った。