circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

ビートルズとクラシックが好きな人はたくさんいると思うし、僕もその一人なのだけど、もしあなたもそうなら、ビーチボーイズのペットサウンズとスマイルをスルーするのはあまりにも理不尽というものだ。ぼくも、片頬で笑いながらスルーしていたけど、騙されたとおもってペットサウンズを十回聞いたら、クラシックで聞かない和音をビートルズが開発して行った、と思ったのに、それ以上の美しい和音をブライアンが作っていたことに気づいて(しかもそれはビートルズほど分かりやすい形ではない)唖然としたものだった。


完成前に投げ出して、永遠のまぼろしとなったスマイル、そのあと長い精神病のあとに、ブライアンは若者たちのサポートによってスマイルを新しいバンドで完成させるのだけれど、そこにはなにか、ヤバさとしかいいようのない何かは、オリジナルの断片たちに漂っている不穏さは、なくなってしまっている。けれど、ビートルズのサージェントのプレッシャー他のために投げ出されたスマイルの統合を行って形を見せてくれたことには意義があった、という視点から、完成版の構成に、当てはまる古い録音を当てはめて、ない部分は新録をつかう、という素晴らしい編集をファンが行ったこれで(下記リンク)、若く頭の切れすぎたブライアンの向こう側の声と、こちらへ戻ってこれた幸せで安定したおじいさんブライアンの声が、交互に聞こえてくるというとても泣ける録音になっている。全ての鬱病だとか、精神病の人に言いたいのは、ブライアンを見ろ、ということだ。自分の健康を犠牲に作品を一つ完成させ(ペットサウンズ)、もうひとつは完成させられなかったけれど、若者たち(ここが泣けるところ)に支えられて完成できた(それはもはや、同じものではないけれど)。病んでいるときに、その時生まれてすらいない若者たちが、助けてくれることになるかなんて、知らないことだ。闇から立ち直るのに必要なのは、一見不条理な偶然と善意を信じることだけだと思われる、それはたしかに、いいものを作っていたから助けてもらえるわけだろうけれど。


https://www.youtube.com/watch?v=8-zve4GqQhg
現代のバッハ、ということばがありえるならブライアンのためにある、これだけ多声音楽を新しい和音でやってのけた人はいない、ときには不協和音で。
冒頭はもちろんきれいだけど、僕が落涙しそうにいつもなるのは16:34のwonderfulという曲で、ここでなるチェンバロと、17:27から始まるコーラスの美しさで、とくに最高音のブライアン(?)の旋律の戦慄であって、気が狂っているのかと思うほど、やりすぎなほど、クラシックではやらない種類の、17:33とか。18:32は普通に綺麗で。そして、そのチェンバロは残したまま、オリジナルの録音にのこっていない18:43の橋架けの部分でおじいさんブライアンが歌い始める部分で泣きそうになり、I wonder if...とおじいさんブライアンが歌った後に、そのあと19:02からの旧録音のコード展開しかない部分のこのあり得ないひびきこのコード展開よ!!19:03の和音の含蓄はなんだろう。このチェンバロ、このベースの動き。これがあっち側を見た人の出す音なのか、と。この、どこでも聞いたことのない絶望の向こうの美。


そのあとに神のようなsurf's upがくる。この曲についてはたくさん言うべきことがある。23:36、23:41〜47のフォーレのような和音。24:25からの上からくるハーモニーが、24:34へ平行して上行して消える様子!!!!!(ここは本当に恐ろしい!)そして24:42のブラザージョンが終わった後の!下に響くコーラスが!24:51のそれ!そして一部の声部だけ24:53で動くようす!!これ、もっとこの方向で行ったらてんかとれたよ!(とっていたか、でも、これは、クラシックだよこれは)





Ssssssss

http://youtu.be/7oRb9-mypxg
天才がこんなセットにとじこめられてこんな風に歌って、その結果押しつぶされて行ったんだ。


Ddddddddd

https://www.youtube.com/watch?v=7Wzsgnv1J6o
The Beach Boys- Wonderful and Child Is Father Of The Man (Fan-Edit Slideshow)
これがサージェントペパーズと同時に出されるはずだったということ。ビーチボーイズの今日の評価は全然違っただろうに。


Oooooooooo
https://www.youtube.com/watch?v=NdzgWYJxQSU
The Beach Boys - Wonderful (Version 3) - Edited/Merged
この冒頭のブライアンによるはずのピアノを聴くだけで、この人が正統なクラシックの和声法を知らないところから、全て一人で和声法を作り上げたのだということを感じる。ひとつの和声の体系を、トムジョビンがひとりで作ったように、ブライアンもひとりで和声の体系を作ろうとしていた、のに、トムと違って彼にはジョアンが、いなかった。どちらにせよ、トムもブライアンも精神を侵されて行ったところに、ハーモニーの闇の深さがあり、僕もそこへ足を踏み入れたいところだ。