circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

首相官邸前でしばらく佇む、足を止めて、カバンを開け、鍵はどこだ、と、探したり、夜のそこは、警官の他に人がいない。わたしは掛ける、遠いところへ。二時間も電話で話したりした。気がつけば。とても遠いところへ来てしまっている。誰もいない、警官の向かい側の歩道は、記憶劇場のようで、ベアトリス・ダルがタクシーに持たれて夜空を見上げるのはこのような、よるだ。たけみつが音をつけたよるだ。何度でも言うけどジャームッシュのばか。きょうは、少年が向こう岸に何かを投げたら、向こう岸の女の子がそれをちゃんと分別したよ、リサイクルだね、
リサイクルだよ、という小さな物語世界のことを思い出した。一人の亡くなった詩人の。あんなに小さな世界をたくさん少ないしかも言葉(の違和感)だけで立ち上げた人がいるならわたしになにがかけるというよ。


絶望するしかない人が五人ぐらいいる。言葉の違和感のきょくちのひと、言葉が美しすぎてげんじつせかいのほうから脱臼をおこさせてしまったひと、リズムとイメージで世界の崩壊をむげんしさせつつ死の渦を通過させていったひと、言葉の置き方が絵として瞬時に盆地に閉じられながら向こう側を切り取ってしまったひと、言葉の暴力の洪水を少年初期にすませてもはや最初から西行のごとくあったひと。


さて、自転車にのりながらなくしてしまったノンヴィブラートの美しかった少女歌手のことを思い出す。いろいろ口まねをして、やはり、あの美しい人の声を探して、見つからなかった。あのノンヴィブラートの傷つきやすいうたごえ。透明の眼差し。失えば、そこは悲しい世界が。