circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

描写は気持ちを伴わない...この問題。


夜。湖畔で、柳の木が揺れていて。夏。わたしは歩いている。恋をしている人がいる。わたしよりずいぶん前にその人は歩いている。わたしは話しかけることができない。その人はすっすっと歩いていってしまう。月が光っている。


伴わない...この問題。


いかにわたしが胸を締め付けられていようと、その胸の締め付けは誰に伝える事もできない。絵にしても、映画にしても、音楽にしても、たぶん、その締め付けられることの甘さを伝える事はできない。わたしはそれを抱いて生きていくし、それを抱いて死んでいく。


美しい、と書きさえすれば物事が美しくなるのなら、わたしは何度でも何度でも美しいという言葉を書いただろう。これからもまた書くだろう。どうして人がこんなにも美しくあれるのだろう、と思う事が数回今まで生きてきてあって、その、奇跡のようなものはかならずわたしから去っていくのだろうけれど、残された跡に立ち止まって、あるいは立ちすくんで、わたしは何をすればよかっただろうか?