circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

昔の自分のサイトをひっくり返してたら見つかったグレート・ギャツビー第一章のダイジェスト訳。笑えるんでアップ。なぜか関西弁。




僕が若くて傷つきやすかった時分に、父はあるアドバイスをくれた、爾来僕はずっと
それを反芻している。
 「なんかだれかにむかついたときは」父は言った「世の中のみんながお前みたいに
恵まれて育ってきたわけやないことを思い出せや」
 彼はそれ以上言わなかったが、われわれは言外で話が通じ合ったので、それ以上に
彼が言いたいことがよく分かった。その結果、僕は判断を差し控えがちになり、それ
で、変な生き物に対してオープンな人間になり、年季入りの退屈な連中の話し
相手になるという羽目に陥った。この変な連中は鼻が利くのであって、この僕みたいな性質
が普通の人間に現れるとすぐ集まってくる。そんなわけで大学で、僕は策士
であるなどと不当にも非難されたりした。それは僕が、野生の未知なる奴らの秘密の
悲しみをいろいろ打ち明けられたりしていたからだ。
でも奴らからの信頼は求めて得たものじゃない―――
時々僕は寝てるふりさえした、何かに没頭したり、よそよそしく振舞った
りもした。見間違えようのないサイン、僕へあてた親しみの気配のサインが水平線の
上を漂っているのが分かるんだ―――若者から発せられる親しみの気配って、少なく
ともその言葉は、たいてい借り物で、明らかな抑制でゆがめられたものだからね。判
断を差し控えるというのは永遠の希望を生む元だよ。僕はいまだに、次のことを忘れ
たら何かを失うんじゃないかと思う。つまり、父が偉そうに言い、僕も偉そうに繰り
返すが、「根本的な礼儀をわきまえることに対する感覚というものは生まれつき不平
等に分配されている」ということだ。

<ずごんと略>

 それから、いちにちふつか寂しかった。ある朝、僕よりも後に来た男に道を尋ねら
れたときまでは。
 「West Egg Villageてどこすか」彼はヘルプレスに尋ねた。
 僕は答えてやった。それから歩いているうちにもう寂しくなくなっていた。僕はガ
イドだ。パスファインダーだ。オリジナルセトラー(setler)だ。(訳すと案内者だ、
開拓者だ、最初の入植者だ)彼は何気なく僕に市民権を与えてくれたようなものだ。
 そんなわけで太陽が照っていた。木の上で緑が爆発せん勢いだった――まるでビデ
オのはやまわしみたいに―――。それとともに僕は、あの、おなじみの、「夏ととも
に生命がまた始まる」という確信を抱き始めた。
 読むべきものはたくさんあった。若々しい香り漂う空気に遊びに行きたくなるのを
力ずくで引き離すべき、健康な肉体もあった。僕はダース単位で本を買った、バンキ
ング、クレジット、それから投資信託についての本だ。そしてそれらは赤や金色に僕
の本棚を飾った、まるで造幣局からいまできたての紙幣みたいに。それらは、光り輝
くあの秘密を僕に打ち明けること、マイダスやモルガンやマエケナスしか知らなかっ
た秘密を教えてくれることを約束して、そこにならんでいた。そのうえぼくはまだま
だ読むぞと気負いこんだ。大学時代は文学青年だったのだ。ある年僕は「イエール大
学新聞」のために鹿爪らしい論説を書いたりしていたのだ。今や僕はそういったもの
をもういちど僕の人生に取り戻そうとしていた。そして、すべてのスペシャリストの
中でも数少ない人間、例の"well-rounded" man(多彩で調和の取れた野郎)にもう一
度なろうとしていた。

<ずごんと略>

 僕らは少しの間日の照らすポーチで話していた。
 「ええとこ見つけたわ」彼は言った。絶え間なく目を光らせながら。
 片腕で僕を回転させて、彼はもう片腕の広いフラットな手のひらを正面の並木道に
そって動かした。その軌跡には次のようなものが含まれていた。イタリア式庭園、半
エーカー咲き誇る深紅の匂いの強いバラたち、それから獅子鼻のモーターボート、沖
に向かって波に体当たりしていた。
 
<ちょっと略>

 僕らは天井の高いホールウェイを通り抜けて明るいばら色の部屋に出た。両端の
フランス式ウィンドウで、なんとか家の形を保っているみたいな部屋だった。ウィンドウは
開いていて、白くやわらかく光っていた。外では新しい芝生が、家の中に入り込
まんとする勢いだった。そよ風が部屋を通り抜けていって、一方のカーテンを部屋の
中へ、他方のカーテンを外へと、旗のように吹き上げた、糖衣をかけたウェデングケー
キみたいな天井にカーテンは巻き上げられた。―――それから、風はワイン色の絨毯
にさざなみを立てて、絨毯の上に影を作っていた、風が海にする作用みたいだった。
 その部屋で唯一動かない物体は、でっかい寝椅子だった。その上にふたりの若
い女性が、まるで繋留されたバルーンにでも乗っているかのように浮かんでいた。彼女たち
は両方白色の服に包まれていた、その服は小刻みに波うち、ひらひら揺れていた、
まるでいま、家の周りのショートフライトからふわりと戻ってきたところみたいだった。
ぼくはそこで立ってしばらくのあいだ聞いていた、カーテンのはためく音、壁の絵が
うなる音、それからバタンとドアが閉まる音。トム・ブキャナンが帰ってきて後ろの
窓たちを閉めたのだ。それで、部屋や、カーテンや、絨毯や、ふたりのバルーンしている若
い女性のまわりに漂っていた風はつかまって、死に絶えてしまった。

<ずごんと略>

 「今なにしてんねん、ニック?」
 「僕は、証券マンだ」
 「どこのや?」
 僕は伝えた。
 「聞いたこともないわ」彼はきっぱり言った。
 僕はむかついた。
 「そのうち聞くよ、」僕は短く言った。「君がEastにいつづけるならね」
 「おい、おれはEastにいるつもりや、心配すんな」彼は言った、デイジーをちらり
と見、それから僕を、あたかも警戒するかのように見た。「どうせ俺はどこにでも住
めるガッデムあほや」
 
<ずごんと略>

 スレンダーに、物憂げに、彼女たちは手を自分のヒップに軽く乗せて、僕の前をば
ら色のポーチまで歩いていった。ポーチは夕日に開かれていて、4つのキャンドルが
テーブル上で和らいだ風に揺れていた。

<ずごんと略>
 
 「文明はいまや解体や」トムが突然バイオレントに言った。「もうおれはペシミス
トや。お前この『有色帝国の勃興』ちゅう本読んだか、このゴダードゆう奴の本」

 「なんで、いや、読んでないけど」僕は答えた、彼のトーンにかなり驚きながら。
 「ええか、これはええ本や、みんな読むべきや。言うとるのはこういうことや、き
いつけんと、白色人種は完全に、―完全に沈没すると。これは科学的なはなしや、証
明されとる」

<ちょっと略>

 「ええか、これはサイエンティフィックや」トムはまだ言った。彼女を我慢ならな
い様子で見ながら。「こいつはすっかり解き明かしとるんや。おれらにかかっとるんや、
おれらがちゃんと見張っとかんと、ほかの人種に支配されてまう」