circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

  過去の詩を。なんとなく今、ここにひろいあげたくなったので。




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「南」



海辺の夜、わたしたちは畳の部屋で本を読んでいた。父と母はど
こかへ出かけていた。わたしは「太閤記」を読んでいた。母の子
供時代の古い本。兄と弟が何を読んでいたかは覚えていない。父
と母が旅館に戻ってきて、わたしたちは寝かせられる。海辺の夜
の中で、父の背中が影絵に見える。ギターを弾いている。くらく、
くろく。



ああ、南!
(写真でしか見たことのない)
そこには、光があふれ、
思い出のなかの
父の背中が
ギターを弾いている



ある夜、父の部屋に忍び込んで―僕は父が怖かった―、ひとり、
床にしゃがみこんでラジオを聴いていた。ギターが、遠い南の地
の思い出を奏でていた。雑音に紛れて。かぼそく。窓の外を見る
と雨が降っていた。