circustic sarcas

Diary of K. Watanabe

夜だった。そのビルの軒先で傘を畳んだ。雨がひどく、繁華街の裏道には誰も通らなかった。地下のバーへ降りていくと、暗いカウンターに男性が離れて二人いた。そのそれぞれのカウンター越しに女性が二人いて、それぞれの男性と話していた。誰もいない椅子に座って本を読んでいると、わたしの向かいに深海魚みたいに、髪の毛の長い女性が座った。驚くほど大きな青い目と、透き通るような高い声を持っている。「こんにちは。」「こんにちは。」初めまして? ええ、こういうところに来るのは初めてで、緊張してます。そうなんだ。ほかのこういう種類の店とかは、たとえば、メイドカフェとか? いや、昔外国人の友達をつれて一度だけ秋葉原メイドカフェには行ったんですけど、合わなかったんです。へえー。会話が途切れた。「社会見学に来たんです…というのは嘘で…あなたにお会いしに来たんです。」青い目を驚くほど大きく見開いたまま、彼女は何も言わなかった。わたしも次に何を言えばいいのか分からず、ただ、しばらく、その顔を眺めていた。