白い空を見上げる。すべてのものはもうそこにあってぼくの参加意義は何もない。新しい場所はどこにもない。空はあってもどこへ突き抜けることもない。お金があれば何とかなるのか、お金で買えるものは変えるものではない。黄色い看板が借りろと迫ってくるが、夢などなにもないし、お金で買えるものは夢ではない。消費者金融の看板のマークや牛丼屋の看板のマークがいつも恐ろしい顔に見えるのはどうしてだろう。彼らが見下ろしている世界にはすべてがあって何もない。
今日も地上の人々が浮かない顔で見上げてくる。彼らは誰も僕がこんなところに住んでいるだなんて思わないだろう。四方を鉄板と鉄骨に囲まれて、見える外界は四角い空だけ。雨が降ると青いごわごわしたビニールを掛けに梯子に登る。蓋をしてしまうと閉じられた立方体の中はめっぽう暗い。雨の音、タイヤが水溜りをこえる音、クラクション。ときおりサイレン。それだけだ。
ぼくの住んでいるビルには空がない。正確にいえば真っ当な空がない。
雨が降った。
ぼくは暗い階段を登って屋上に出る。「やあ」と空守りさんが言う。空守りさんは梯子に登って忙しそうにしている。ぼくもちがう梯子に登って天井造りを手伝う。
やあ ありがとう と空守りさんが言って
いいえ どういたしまして とぼくが言った。
そうしてぼくはまた
暗い階段を降りて行く
上のほうから雨の音
ぱしぱし ぱしぱし