4.15
そうだ。もう昔のことだが。
私がおさなかった時のことだ。あのころにはまだ奴がいた。
奴はよく丘の上に上がって、一人で夕焼けの空や夜明けや空の星
をみて、泣いてたものだ。そして角笛など吹いていたものだ。
そうだ。奴も死んでしまった。とうの昔に。
私もそろそろ死期にきたのかもしれない。
奴の気持ちが私にもよくわかる。
夕焼けの空に遠くの人を求めて
角笛を吹いてた奴の気持ちが。
そうだ。あのころはよかった。
科学が奴の夢をくずした。
のこったものはたましいのぬけたぞうけいばかり。
そうだ。いつも遠くを見ていよう。
こんな世界をはやくのがれて。
かなわない夢をずっと見つづけ
無常な時の流れからその身を移して。