circustic sarcas

Diary of K. Watanabe


+きみに読む田村隆一


樹は
空に向かって歩いている空に
向かって

帽子の下には顔がある
ドアを開ければ君がいる

この世の終わりのために
ぼくは言葉をえらんだ
きみに読む田村隆一

宇宙に架かるブランコに乗って
星くずを撒き散らしながら
ぼくの言葉はひろがる

ドアをあける

どうやって生きるのですかと
聞かれて戸惑った
猫は猫の生きかたで
犬は犬の生きかたで生きているだろう
だからぼくはこう書いた

樹が好きだ
静かだから

樹が好きだ
愛とか正義とかわめかない

世界がまたひろがる
宇宙のドアをあける

それは本当?本当に本当?
宇宙のなかで孤独な私の声

よく見れば
樹は静かな声でくちづさんでいる
樹は歩いている空へ
空へと

樹は地に向かって雷のように走っている

ええ、樹はたしかにわめかない
けど、樹は愛、そのものだ

空へ

樹は正義、そのものだ
そうでなくては自分がくんだ地下水を
どうして空にかえすだろう?

結晶する空

どの二つの樹もおなじではない
どの二つの樹もにてなんかいない

樹、樹よ! 
僕は愛している!

虚無僧の笛
わたしの孤独
宇宙の孤独
でもひろがる航跡

人間は生き方を持っている
自分のスタイルってやつだ

さて僕のスタイルについて

・ふかくねむること
・ながくあるくこと
・ひるのゆめ

(優雅にぼけの世界に沈みましょう)

スター・ライト
ワイルド・フラワーズ
倒立する水平線

帽子の下には顔があり
窓をあければきみがいる

樹から飛んでいく鳥達のざわめき
太陽のひかり
太陽の落下速度

すぎるのは時ではない
すぎるのはぼくら自身だ

だからぼくはかつて書いた

たくさんの人が死んだ
ぼくもいつか死ぬだろう
(別れの風、笛)

ぼくらが見たのは
時、だけだ